結婚相談所物語

父の出番~PART2(男の適齢期)

嫁が私にしきりにけしかける。


あなたからも言ってよ。


あの子ももう35になるのだから。


そうか、あいつももうそんな歳になるのか。


図体は大きくなったが歳もくったな、


と思いに耽(ふけ)っていたら嫁は機嫌悪そうに、


自分の息子のこと、


もっと真剣に考えてよ、と愚痴る。


考えてないこともないが


こればっかりはどうしようもないじゃないか、


もう家も出ていることだし。




最近、息子の結婚についての話題が


どんな料理よりも頻繁に食卓に上る。


母親としてやきもきする気持ちもわからないではないが、


どうしようもないという結論は変えようがない。


そんなある日、


嫁がどこからもらって来たのか


資料を取り出してテーブルの上に並べた。


結婚相手を世話してくれるところの案内らしい。


なるほど、そういうシステムがあるのか。


しかし、あいつが素直にそんなところを


使うとは思えない。


いつものようにおちゃらけて


煙に巻くだろうことぐらい目に見えている。


だからあなたから言って欲しいの、と嫁。


どうやらその結婚相手を世話してくれるところで、


父親に諭されて結婚する気になった息子さんの話を


聞いて来たようだ。


それにしても何をどう話せばいいんだ?




今度の週末にあの子が帰ってくるから土曜に話してね、


日曜はそこへ連れて行くんだから。


なんならあなたが連れて行ってくれてもいいのよ。


嫁が猛然と息巻いてきた。


こうなればノーと言ったらとんでもないことになる。


仕方ない、


酒でも飲みながら話をするとしようか。


そうとは知らず呑気面下げて帰ってきた息子。


しかしいつもと雰囲気が違うと察したようで、


いつも以上におちゃらける。


嫁が私の方を鋭い眼差しでじっと見つめる。


私は観念してポツリポツリと話し出した。


「嫁をもらうあてはあるのか?」


「ない」単刀直入過ぎて息子も逃げ道を失ったようだ。


「お前、女嫌いとかそういうんじゃないだろ」


「まさか」


「そろそろもらえ」


「そのうちな」


「いや、もうもらわなきゃならん」


「考えとくよ」


「お前いくつだ」


「35」


「35に25を足してみろ」


「60...」


「定年まであと25年。


子供が生まれてお前のように大学院に行ってみろ、


一浪でもしていたら卒業する時にギリギリ定年だ。」


「子供も一人とは限らんぞ。


女とは違う意味で男にも適齢期はあるんだ。


そこはよく覚えとけ」


「...」


「母さんがいい所を教えてくれた」


「?」


「嫁さんを世話してくれる所だ。


明日私と一緒に行ってみるか?」


「......親父が行きたいなら付き合ってやってもいいよ」




そういうわけで、


成り行きで私も結婚相談所とやらに出向くことになった。


秘密めいた場違いな所だったらどうしよう、


と多分あいつも思っていたはずだ。


道中、私と二人口が重い。


しかし、予想に反して、


何というか、普通であった。


ほっと胸をなでおろす。


あいつも同じ心境だったらしい。


「ずいぶんと背が高いのねぇ。


何を食べてこんなに大きくなったのかしら(笑)」


と場を和ませようとスタッフの女性が話しかけてきた。


「ファミマでこんなに大きくなりました」


即答で切り返すいつものようにおちゃらけな息子。


どうやら平常モードに戻っているようだ。


そうだな、


あんなにチビだったこいつが大学で家を出てはや15年、


ファミマで何を食ったか知らんが


確かにでかくはなったよな。


チビだった頃のこいつに似た孫にでもまた会いたい。


そんなことを薄らぼんやりと考えながら、


私は頭を下げていた。


「どうぞよろしくお願いします」




それからはあまり詳しくは知らない。


真面目に嫁さん探しをしているのか、


独身寮にいる息子に親父が


しのごの言うのも如何なものかと思うし、


嫁が私の分までやんやと言っているだろうし。


そんなある日、


嫁が朝から忙しそうに片付けをして、


その割には機嫌がいい。


今日はなんの日だ?


と聞いたら、


何とぼけているのよ、


今日よ、あの子が連れてくるのよ!


彼女を!


そう言えば息子が帰ってくるとか言っていたな。


そうこうしているうちに玄関先に大木と


それに止まった小鳥のような二人が立っていた。


実によくコロコロと笑う子である。


いいじゃないか。


笑いのツボが同じ夫婦っていうのも。


きっと明るく元気な家庭になるだろう。


二人が帰った後に嫁がポツリと言った。




「あなたがあの子に言った"男にも適齢期がある"って言葉、


あれがあの子には効いたみたいよ。


まあ、あんな可愛い子を連れてくるのだから


親の欲目で見てギリギリセーフね、男の適齢期」




息子と酒が飲めるようになった時は嬉しかった。


次は息子と家族同士の付き合いが出来るのが楽しみだ。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子