結婚相談所物語

料理上手の褒め上手

姪っ子の話。


姪のマリは小さい頃から頑張り屋さん。


医者になってももっと研鑽を積もうと診療しながら大学院に通ってる。


でも私にしてみれば、


お医者さんだからこそ家庭を持って子供も産んで色々な経験をして欲しい。


その為にも女性として一番いい時期を逃さないで、


そう思って、


勉強中だからと渋るマリに結婚相談所を紹介して背中を押した。


だってマリは、真面目はいいけど堅くて地味なんだもの。


マリ自身自分には華やかさがないってこと自覚してるようだし、


医者の世界はそう言う意味では閉鎖的だと聞くし、


だったら同業者に限らずもっと広くお相手を


求めていいんじゃないって思ったの。


それにマリは家事好きでお料理なんか手早くてとても美味しいの。


地味かもしれないけど仕事も頑張って賢くてお料理も上手で、


こんないい女性はなかなかいないと思うのよ。


だから不規則で忙しい仕事のマリを支えてくれる


"いい人"を早く見つけてって願ってた。




強く勧めたらその気になって


入会したというので、どう?と尋ねてみた。


すると自分で申し込んだ人には断られてしまったけど


アドバイザーに紹介してもらった人とはお付き合いになりそう、


という返事。


聞くとすごく真面目そうだし条件もよさそうだし、


マリにはピッタリねって先行きを楽しみにしてた。


でもそれから先はいつも、


映画観たとか食事したとかその程度。


本人たちはどう思ってるか知らないけど


傍目にはまるで進展なしね。


どうやら彼はちょっと気の利かないタイプみたい。


マリにはちょうどいいペースかもしれないけど


いつまでもこのままじゃどうかしら、


と心配していた矢先、


彼と料理対決をすることになったと言ってきた。


料理対決?そう、


彼も自称料理上手とか。


ならばどっちが上手?二人で競ってみたら?


ってアドバイザーにすすめられたようね。




とりあえず彼の新築マンションでお互いが


腕を振るうことになったらしいの。


なるほど考えたものね。


共通の話題でより親密になるかそれとも距離が一層開くか、


どちらにしろ今の停滞状態よりはマシっていう訳ね。


そんな思惑を知ってか知らずか我がマリは楽しみにしてたわ。


お題は魚。


どうせ対決するなら、


ということで彼のリクエストらしいけど


これはなかなかハードルが高い。


でもマリはみぞれ煮やら竜田揚げやらを


あっという間に並べ、


目分量なのに絶妙の味付けだし


何よりもその手際の良さに


彼も脱帽してくれたってマリは喜んでた。


そう、マリは結構潔いところがあるから


お料理にもそれが出るのね。


彼はと言うときっちり計ってレシピ通りの料理だと言うので


きっと几帳面な性格そのものなんでしょう。


でもマリは、彼の料理も美味しかった、って褒めてた。




確かにこの料理対決からね、


マリが真剣に結婚を考えるようになったのは。


急に二人の生活を現実的に口にするようになった。


彼も料理好きだし上手だから


早く帰った方が夕食当番しようかな、とか。


それで聞いてみたの。


彼の新しいマンションは


彼の実家から近いらしいけど新居にして大丈夫?


返事は、私の仕事が忙しい時でも


彼をお任せできるのでかえって安心よ。


では彼は他の家事も出来るらしいけど


それって細かく言われるんじゃない?


これにも、そうなの、何でも自分でしてくれるから


私のマンションそのまま置いといて


週に1日だけ一人きりの時間を過ごさせてもらおうかな。


こうも疑いもなく無防備に頼られると、


じゃあ力になりましょうってことになるわよね。


もちろん、マリがいつでも全力投球だからなんだけど。


今では週の大半は彼が夕食作ってるみたい。


そして週に1日は


マリは自分のマンションで一人になって


院の勉強をしてるらしい。




彼といるととっても落ち着くの、と笑うマリ。


どうやら


「ありがとう、激務のストレスを解消してくれているのはあなたよ」


のオーラを包み隠さず投げかけて全面的にもたれかかっても、


それを喜んで受け止めてくれる"いい人"を見つけたみたいね。


痩せて綺麗になったわねってからかったら、


ストレス食いをしなくなったもんねと舌を出した。


目分量の手早い料理でも計量きっちりの教則本料理でも、


どちらの過程も尊重して美味しい結果を認めて褒めて、


作り手を讃え合うのが二人の流儀。


必要とされることはもちろん、


相手を必要とすることも大切なのね。


マリはそこのところちゃんと解ってる。


賢い女性は料理上手で褒め上手、


加えて頼り上手の甘え上手。


マリちゃん、綺麗になったのは本当よ。


末長くお幸せにね。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子