結婚相談所物語

父の出番~PART1

長年教育者として多くの子供に接していると


一定の法則が見えてくると彼の父は言った。


第一に、家庭教育において父親の参加は重要です。


時間的制約などで不完全であってもゼロか


そうでないかの違いは確固たるものがあります。


次に、子供はバランスよく導いてやらねばなりません。


ある分野に突出した能力を示す子もいますが、


その能力を活かすにも最低限の総合的力は必要です。


最後に、発育段階の時点に応じ相応しいことをさせておかねばなりません。


遊びも学習も時機を外れると取り返しがつかなくなります。


この三つのことは当たり前のようですが


実践となるとなかなか難しいのです。




さて、我が身に置き換えて彼の長男。


それなりに順当に育って社会人となりました。


社会人としては真っ当に責任を果たしているようです。


しかし私生活においては偏りがある。


いやその偏向ぶりは年々増しているかのようです。


その最たる問題が結婚です。


結婚は遊びでも学習でもないですが、


むしろ"いつから始めても遅すぎません、


思い立ったが吉日"などと謳っている


語学やペン習字などと比べても


格段に「時機」が重要でしょう。


時間と若さは巻き戻せないからです。


結婚こそ人生におけるまさに逃してはならない時点と言えます。


そこで彼の父は、


我が息子が結婚すべき年齢時期に達しているにもかかわらず


マラソンばかりにうつつを抜かしているという現実に、


妻である母親にだけ気を揉ませているのはよろしくない、


という結論に至ったのです。


ここは母親同様父親も、


著しくバランスを崩しつつある子供の生活を修正すべく、


更にまた然るべき時期に為すべきことをさせるように、


立ち上がらなければいけないと決意したのです。




まず結婚に必要不可欠なお相手。


こちらは妻の広範かつ緻密な情報網に拠り、


結婚相談所を利用して探すことにしました。


妻が入会の手続きをする。


しかし息子本人もそこに一度は出向かなければならないという。


まあそうでしょう。


息子に会うということは、


相手にも会っているわけだからそこはとても信用できる。


そこで私がやんわりとしかし厳かに言う。


「そろそろお前も家庭を持たなければならない。


ついてはお見合いに出向くように。」


すると息子は案外素直に了承しました。


やはり父親の力は絶大です。


ところが妻は言う。


「何を呑気に悦に入ってるんですか!


お見合いすればいいってもんじゃないんですよ。


あの子はお見合いパーティーにも


フルマラソンを走った後の汗だくの格好で行くし、


先方さんから気に入られてもマラソンがあるからって


デートの約束もしないでそのまんまだし、


ちっともよくありませんっ!」


妻は結婚相談所の担当の方としっかり連絡を密にして


情報を握っていたのです。


息子が女性から気に入られる?しかもそれを無下にする?


なんともったいない罰当たりなことを、


と感じ入っているとまた妻の口撃に遭う。


「もったいないとか、そんな問題ですかっ!」


「お医者さん希望のお嬢さんがあの子のこと


気に入ってくださって滅多にないことなのに、


あの子は相変わらずのんびりマラソン三昧。


担当の方が、


悪気はないんだからって一所懸命お嬢さんを


引き止めてくださっているそうですけど、


ほんとこのままだったらあの子は一生お一人様ですよ。」


妻の息子への不満はイコール私への不満になりつつあります。


そこには、父親ならなんとかしろという


無言の圧力を感じないではない。


確かに、息子を気に入ってくれるお嬢さんがいるうちに手を打たないと、


私の標榜する子育てへの父親の参加、


バランスよい学習や生活の指導、


時機を捉えての教示、


の原則に自ら背くということになりかねない。


結婚相談所との連絡係は妻に任せるとしても、


私も息子といよいよ対峙しなければならない時が来たようでした。




「頂点を極めたと言えるノーベル賞受賞者は良き家庭人が多いそうだぞ。


独り身で好き勝手して得た記録と


応援してもらって喜びを分かち合える記録との価値は同じか?


仕事とマラソン、


両立できるなら次なる高み、


家庭との三者共立を狙え。


いつまでもあると思うな親と縁談。


次世代育英も人の道。」


私はことあるごとにありとあらゆる表現で訴えました。




その結果、なんと息子も緩やかではありますが


結婚への道を歩み出したのです。


勿論こんなマイペースの半オタク息子を


粘り強く待ち続けてくれた


お嬢さんの忍耐力のおかげであるのですが、


半オタクから軌道修正さえ出来たら


息子もそんなに人間悪いやつでもない。


いい頃合にうまい具合に状況を好転させられた、と安堵し、


やっぱり子育てには父親参加、


バランス感覚そして時機掌握、


とこの三つのキーワードが大切なんだと身を以て実感した次第です。


息子曰く「あの親父があれだけ首突っ込んでくるんだからなぁ。」


そりゃあそうでしょう。


子供の縁談は母親だけの仕事じゃないのよ。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子