結婚相談所物語

プロフィールの約束

写真と文字。


それだけで出来るだけその人物を表現しなければならない。


物ならサイズさえ正確に表示すればおよその形状はわかるけど、


人間の場合は身長と体重を表しても筋肉質か


そうでないかでも随分と印象は変わるから難しい。


それでも、


やっぱりこれは太りすぎでしょ、


というレベルはあるものだ。


彼の写真は意志の強そうな眉毛も凛々しく


なかなか好男子に撮れていた。


だけどそれが限界だった。


太り過ぎである。


体格がいいのも個性のうち、


かもしれないが理由のない太り方はやっぱり敬遠されるだろう。


そう思ってダイエットを勧めた。


結婚相手として見るならやっぱり丈夫で元気が一番よね、


若いうちはいいけどこのままだと


成人病の予備軍に早々に仲間入りすると思われるよね、と。




かくしてプロフィールの写真は入会時の恰幅の良い姿のままだけど、


彼の涙ぐましいダイエットの日々が続き、


いや、実際この目で見たわけではないけど多分そうだったはず、


サロンを訪れる度ごとに彼の体躯は目を見張るほど


見事にシェイプアップされていった。


その変貌ぶりの驚きもさることながら、


意志の強さは天晴れだった。


いよいよ20kg減となった時、


もういい、


これ以上痩せないで、


と言った程だった。


そうは言っても、


プロフィールをゆっくりと眺めている女性会員に、


毎回毎回、


この男性はね、


今やダイエットに成功してこの写真よりずっと精悍なのよ、


などと説明するのも憚られる。


だけど、


彼女のプロフィールをめくる手元が何となく


彼のページを行きつ戻りつしている気がして、


その時は自然に言葉が出た。


「会ってみる?ご両親が経営している会社の次期後継者さんよ」と。


彼女がまんざらでもない顔をしたので、


「実はこの写真の時より20kgもダイエットしているのよ」


と付け加えた。


彼女はしばらく考えて、


「会ってみます」と答えた。




お付き合いは順調に続いた。


派手さはないけど、


意志を貫く男性とそっと見守る女性の、


何ともバランスのいいカップルだ。


しかし、


このまま上手く行くだろうと思っていた矢先、


新たな問題が生じた。


プロフィールには男性の両親とは同居の必要はない


と書いてあったが、


この条件に変更が生じたのだ。


結婚をして自分たちの会社の経営に


本腰を入れて欲しいと願った彼の母親が、


自宅を二世帯住居に建て直すと言い出したのだ。


全くの同居ではないにしても


同じ敷地内で暮らすことには違いない。


こういう場合、条件が違う!


と気色ばんで言われることもままある。


プロフィールはある時点を切り取った一片に過ぎないから、


と言いたい言葉はぐっと飲み込んで、謝った。


しかし彼女はこう言った。


「そもそも彼のプロフィールの写真からして


違いましたものね。


こういうことはこれからもずっとありますよね。


結婚生活はきっと事情の変更だらけですよね。


でも彼とならやっていけそうです。」


プロフィールに書かれている条件、


この頃はスペックとも言われる項目。


だけど人は物ではない。


時の流れが止まらない限り生きて変化していく。


プロフィールとは本来それを織り込んで読むものだけど、


そうすることは意外と難しい。


けれどもせめて難しいことだということを


理解しているだけでも随分と違う。


熟考し自分で判断しようとするからだ。


ここは迷うところなのか、


すっぱりと結論づけるところなのか、


それは人それぞれなので決して意見を押し付けることはできない。


彼女は彼女なりにプロフィールを読み取り、


実にすっきりと彼の"意志の強さ"を信じて、


それを優先して、


自分で結論を導いたのだった。


プロフィールに表されているものー


それは彼、彼女、自分、あの人、のある時点の姿。


ほら、こうして眺めている間にも変化していく。


結婚は、


プロフィールの姿を無理に維持することではない。


無駄に拘束することでもない。


彼女のように本質だけを読み取って


あとは自分たちで描いていくもの。


だから結婚には創造の楽しみがある。


だから自分たちだけの結婚生活となる。


大丈夫、


貴女ならきっと自分で幸せをみつけて掴んでいけますよ、


と私は心でエールを送った。


おめでとう。


末永くお幸せに。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子