結婚相談所物語

予習なしの出会い

殻を破りたい。


破って何にもとらわれない素直な気持ちのまま人を好きになりたい。


そんな思い・・・。それは無理。


Dr.と冠のつく父と同じ職業なのだから


ちゃんと"条件"を重視しなければ。


そんなためらい・・・。


自分自身の思いや感情がもやもやと交錯する。


だから、「パーティーに出てみない?」と


アドバイザーに勧められた時、


「パーティー?ああそうか、プロフィールから入ると


条件に目が止まって予習してしまうけど、


予習なしにぶっつけ本番で出会う


というのもいいかもしれない。」


と気持ちが揺れた。


「うん、そうしよう。まっさらな状態で出会ってみよう。


殻は破れなくてもヒビぐらい入れられるんじゃない?」


彼とはそうやってパーティーで知り合った。


話題に事欠かず、言葉の端々に自信さえ垣間見える彼。


さぞや一流大学出の一流企業の・・・と思ったが・・・。


彼は専門学校出のパティシエだった。


軽い衝撃を感じた。


彼が一流大学出の一流企業の・・・


じゃなかったことに心残りがあったからではない。


そうではなくて、肩書きに頼らない彼の魅力に触れて、


人を判断することの本質というものを思い知らされたからだ。


彼は自分の強い意志でパティシエになった。


なのに学歴がないというだけで、


相手の親から難色を示されることが度々あったという。


内面には自信があっても、それだけで勝負するところまで


行き着くことができない。


彼にも、予習のない、予習されない出会いが必要だったのだ。


客観的に見たときの歴然とした学歴の差。


パーティーに出会いを求める決心をするまでの私を


がんじがらめに捕まえていた学歴の意識。


しかしそんなものは邪魔な物でしかないことに気がついた。


彼を知れば知るほど想いが大きくなっていく。


溢れ出てくる。


この想いがひとえに彼の内から滲み出てくる魅力によるところであることは、


むしろ彼に学歴がないからこそ明瞭だ。


そして彼の家に行ってまた驚いた。


彼は裕福な実業家の長男だったのだ。


そんなことなど知らずに彼に惹かれたのだけど・・・。


このことは逆に、彼に私の想いが純粋であることを


信じさせることになったと思う。


やたら条件を見比べて初めから色眼鏡をかけての出会いよりも、


何にも頼らない、人本位の出会いが私たちには必要だったのだ。


彼は忙しい。


リゾート地でおしゃれな店を持ってパティシエとして成功しただけでなく、


手広くカフェの経営にまで乗り出して日本各地を飛び回っている。


益々発展していくことを願うし、


もちろんそうなることは間違いないと信じているけど、


私は私でDr.の仕事があるのだから


彼の事業がどうなろうとも支えていける。


私にとっては、彼がいつまでもそのままの彼でありさえすれば、


それだけでいい。


お互いに人物本位で選び選ばれた私たちの絆は固いぞ、と呟いて、


そんな自分の言葉に照れながらも幸せを噛みしめている。


「ほら、よかったでしょう?パーティーに出て。」


「あなた達はきっとお似合いとにらんでいたけど


こういう出会いにしないと難しいと思って、


それでパーティーに出てもらったのよ。」


とアドバイザーに言われた時はさすがに驚いた。


はめられた!のかな?


でも今となっては嬉しいトラップ、ありがたい罠。


感謝せずにはいられない。


マリッジ・コンサルタント 山名 友子