結婚相談所物語

弾む心(母の思い)1

弾みます。弾みます。心が弾みます。


前に座っている主人にも、


ちょっとは落ち着きなさい、


とたしなめられ、


自分でもわかってはいるのですが、


この弾む思いは如何ともし難いのでございます。


長年人さまの赤ちゃんを取り上げる仕事をしてきて、


心浮き立つ思いはいつもさせてもらっておりますが、


自分の息子のことになると


別格というのが正直なところでございます。


近々お嬢さんにお会いできると思うと


抑えようのない喜びが湧いてきて、


それがまた息子のことを気に入ってくださっていると聞きますと、


親としてこんなに嬉しいことは無く、


自然に心が弾むのでございます。




息子はごく普通の男の子です。


いえ、もう男の子という年齢でもありませんね。


それはともかく、


華やかな会社ではありませんが仕事もそこそこ、


休みの日にはゴルフを楽しんだり


美味しいものを食べに出掛けたりとお友達にも恵まれて、


特に飛び抜けたことはありませんが


引け目を感じるようなこともないとは思っております。


ですが私には、


どうしてもあのことが引っかかってきたのでございます。


息子は進学校から東京の有名大学に進みました。


普通の男の子が順風満帆に人生を航海している、


そんな気持ちですっかり安心しておりました。


ところが、


卒業できないというじゃありませんか。


長い人生の一年や二年とは思うものの、


何がどうなって卒業できないのか私にはさっぱりわからず、


親としてできるのは授業料を払い続けることだけでした。


甘い親と思われるかもしれませんが、


見知らぬ東京で何があったのか、


頑なに口を閉ざす息子に尋ねることも憚られ、


その時に聞きそびれてしまったことは


今でも触れることも出来ずにおります。


結局八年も在学しましたが、


つくはずの学歴も棒にふる中退という結果になってしまいました。


何とか主人の口利きで仕事には就けましたが、


私は、子育てに失敗したという情けない気持ちで一杯でした。


私が働いてましたものですから、


息子のことは同居していた姑がよく世話をしてくれていたのですが、


誰がということもなく、


ついつい私たちみんなが


息子を甘やかしてしまっていたようでございました。




それでも仕事に就けた時は安堵し、


それで充分と思っておりました。


ですが、仕事は真面目ですし、


私たち家族には優しいし、


友達とも楽しく付き合っておりますし、


何よりも本人が学歴のことを気にしておりませんし、


大卒という学歴はありませんが


それだけのことで別に悪いことをしたわけでもありません。


こんな息子でも理解してくれる女性がいるんじゃないかしら、


と思うようになり、


子育てに失敗したと気に病みながらも、


人並みの幸せを諦めるほどのことではないと


奮い立ったのでございます。




のらりくらりの息子には、


スタッフの皆さんも随分と手を焼かれたことと思います。


連絡がつきませんねぇ、


メールの返事がとんとありません、


と笑いながら仰っていましたが、


難儀な思いをさせてしまいました。


私も、理由も聞けないまま中退を


黙認してしまったのと同じようなことをしてはならない、と


主人ともよく話し、二人して息子に声をかけ、背中を押しました。


それが現実にこのような心弾む日を迎えようとは。


スタッフの皆さんは、


ご両親のお力添えで、などと仰ってくださいますが、


親が我が子の結婚に骨を折るのは当たり前です。


当然のことをしたまででございます。


今日はひとまずこのように


素晴らしいチャンスを息子に与えてくださったこと、


私にこのような心弾む思いをさせてくださったことへの


感謝の気持ちをお伝えいたしたくしたためました。


乱筆乱文、失礼いたしました。


今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。


~弾む心(母の思い)2へ続く~


マリッジ・コンサルタント 山名 友子