結婚相談所物語

ある研究者の恋

ちょっと待った!その頭。


お見合いの日ぐらい散髪していらっしゃいと言ったでしょ!


とダメ出ししても、


はいスミマセン、


とペコリと頭を下げてその後ニヤリ。


そんじょそこらの兄ちゃん風だけど、


これでも前途有望な大学の先生だというから


人は見かけによりません。


それでも少し言葉を交わすとたちまち、


朗らかで茶目っ気たっぷり、


人の良さがうかがえます。


そして、人間としての引き出しを沢山持った随分幅のある人物、


というのもわかります。


だからでしょう、


学生からも好かれていて、


研究が終わるのを待ち伏せされてたかられるので大変ですわ、


あいつら研究室にも侵入してくるんですわ、


と言いながらも嬉しそう。


ただ、女心にはてんで素人、


女性との付き合い方となるとさっぱり、だとか。


女医さんとも付き合ったことはあるんですがダメになりました、


その術さえあれば、ねぇ・・・ということで、


彼には1歳年上の弁護士さん、


2歳年上の幼稚園の先生、


3歳年下の会社員さん、


とバラエティに富んだお相手を紹介しました。



彼を紹介するときは、


その容貌と中身とのギャップについて一言添えた方が良さそうです。


それでも幼稚園の先生には彼はちょっと好みと違うかな?


この女性、本人は結婚に興味ないけれど、


このサロンで結婚した人の話を聞きつけた母親が、


我が娘もこの時期を逃しては後がない、


と意を決して入会してきたのでした。


だからすべて窓口は母親です。


ところが豈図らんや、


彼が心に残った、と言うではありませんか。


さては彼を推す我々の熱弁が功を奏したか?


でもまだ話は始まったばかり、


予断を許しません。


とにかく彼は、


急にモテ期に入ったかのように、


いきなり3人とのお見合いからの出発と相成りました。



それから、「僕、惚れました。」


と彼が声をあげるまでに


そう日にちはかかりませんでした。


「まず彼女の顔、好きです。すべて僕に合わせてくれる、心地いいです。」


それは結婚に興味がないという幼稚園の先生でした。


その後はもちろん彼女一本、


彼女にまっしぐら。


そのスピードとグイグイ彼女を引っ張っていく手腕は、


とても女性との付き合い方はさっぱり・・・


なんてもんじゃありません。


さすが研究者、


恋愛に対しても熱心です。


勤勉です。


これには彼の母親が面食らってしまいました。


もともと自慢の可愛い一人息子、


息子のことが大好きです。


ついぞ細かい注文が出てしまい、


いざとなると息子が離れていくように思えて戸惑いが隠せません。


でもそこはさすが親子、


彼の必死の説得と我々の多少のフォローで納得し、


それでも「息子が決めたとなると納得もしよう、


しかし相手やその親が出過ぎる事はまかりならん。」


とでも言いかねない様子の時には、


彼女の母親の方が、


「娘にはもったいない話です。


すべてそちらに合わさせていただきます。」


と実に謙虚で絶妙な立ち回りを見せて、


事なきを得ました。



こうして、人好きのするやんちゃな研究者と


おっとり可愛いお嬢さん先生は、


それぞれの母親の思いを円満に丸め込んで、


一番いい形に収まったのでした。


さすがはアカデミックな御仁です。


判断、行動、いかにも明確いかにも迅速、


お見事あっぱれでした。


そしてまたその後もまた素晴らしい。


彼の祖父母と両親の結婚記念日は偶然同じ日ですが、


何と彼らもその日に入籍を果たしたのです。


三代同じ結婚記念日という何とも縁起のいい、


慶ばしいことこの上なし!ですね。


さて、彼が東京の研究室に移るのを機に


東京で新婚生活のスタートです。


どうぞ末長くお幸せに、


とエールを送りましょう。


あ、でもちょっと待った!そのジャージ。


せめて彼女と一緒の時ぐらい、


ジャージで新幹線に乗るのはよしなさいと言ったでしょ!


マリッジ・コンサルタント 山名 友子