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〔9〕 3つのプリン

 

 見合いの翌朝、エムロードに先に電話をしてきたのは恵だった。

 

 はずむような、ワントーン高い声が受話器に響いた。

 

「優子さん! 私、大木さんとお付き合いしたいです」

 

「感じのいい人でしょう」

 

「ええ。とっても!100点満点で120点です」

 

 優子はこみ上げてきた微笑を抑えた。予期していた返事だったが、うれしかった。

 

「ふーん。よかったわねえ」

 

 しかし、大木からの電話は今一つ煮え切らなかった。

 

「素敵な方やと思います。でも... 」

 

「タイプじゃないのかな。正直に言ってください」

 

 優子はやさしく問いかけた。ゴールは結婚なのだから。一生なのだから。無理は禁物だ。

 

 大木は言った。

 

「飛行機に乗ってはったような... 華やかな仕事してはった人が、しかも初婚で... いきなり子持ちのお母さんになりはるでしょうか」

 

 最もな不安だった。だが、恵はその仕事を捨てて結婚への道を選んだのだ。さっきの恵のはずむような声を思い出し、優子は確信をもって言った。

 

「恵さんはCAを辞められたのよ。それにあなたのことをとっても気にいってらっしゃるわよ。まずは二人の気持ちじゃないですか。あなたのことが大好きになれば、母親業も一生懸命になられると思うの」

 

「先方はぼくのことを気に入ってくれはったんですか」

 

 大木は意外そうな声を出した。

 

「そうよ。100点満点で120点だって」

 

 優子はそう言って、電話の前で頷いた。

 

 大木はゆっくりと言った。

 

「山本さん。ぼくね、前回は母親に猛反対受けた結婚やったでしょ。母親をめちゃくちゃ悲しませたんです。だから今度は母親を安心させる結婚がしたいんです」

 

 彼の親への純粋な思いに、優子は涙が出そうになった。

 

 エムロードに初めて電話をかけてきたのは、その母親だった。あたたかく柔らかく、謙虚な話し方。年はとってもいつまでも息子のことが気がかりな高齢の母親の姿を、優子は思い出していた。

 

「そうね。大木さん。わかります。うまく続くようだったら、そのうちにお母様にも会っていただきましょう」

 

「そうですね」

 

 まるで電話の向こうで深いお辞儀をするように、ゆっくりと電話は切れた。

 

 大木は恵のことを気に入らないわけではなかった。

 

 初婚の独身で子どももいなければ、堂々と声をかけたに違いなかった。

 

 彼は電話を切って、考えた。

 

 電車で家路をたどるときも。駅前のスーパーで娘と二人分のおかずを買うときも。

 

 この生活に、もしも恵が喜んで入ってきてくれるなら。

 

 気がつくと、焼きプリンを3つ買っていた。

 

 レジを終えて苦笑いしたが、心は浮き立っていた。


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