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〔8〕 パリの思い出を話しながら

 ご紹介当日、優子はベージュのスーツを選んだ。

 

 恵がピンクか白を着てくるだろうと思ったからだ。

 

 場所はエムロード本社内のサロンだった。

 

 恵が先に現れた。

 

 薄いブルーのワンピースに、小さな茶色いバッグをもっている。

 

 ナチュラルなメークに、サーモンピンクの薄めの口紅だった。

 

「もうちょっと華やかにしてきてもいいのよ」

 

 優子が言うと、恵はちょっと目を伏せた。

 

「母に出てくる直前までぐちぐち言われちゃって」

 

 優子は大きなため息をついた。

 

 その時、上のほうから声がした。

 

「お待たせしました。大木です」

 

「あっ」

 

 恵が立ち上がった。

 

 ちょうど大木の分厚い胸のあたりに恵の顔があった。

 

 しばらく、見あげていた。

 

「はじめまして。羽田恵と申します」

 

「はじめまして。大木俊也です」

 

「まあ、お座りになって」

 

 優子はうながして、二人を向かい合わせに座らせた。もはや余計な説明は何もいらないと思った。いつもより早い退散だが、もういいだろう。

 

「あとはごゆっくり」

 

 優子が消えると、二人はアイス・カフェオレを前に、話し始めた。

 

 恵が話しかけた。

 

「会社ではどんなお仕事されてるんですか」

 

「アジア圏の材木を取り集める部署です。ほんとは出張もたくさんあるし、転勤もありなんですけど、今は娘が小さいので、会社に言って、日本統括みたいなことをさせてもらってます。まあいつまでそんなことが通用するのか、ちょっとわかりませんけど」

 

「そうですか。娘さん思いなんですね」

 

「いや...

 

 大木はちょっと申し訳なさそうな顔をしたが、恵のほうに話を振った。

 

「それはそうと、恵さんはスチュワーデス... あ、いや今はCAっていうのかな。やってらしたんですよね。国際線ですか」

 

「はい。もう辞めましたけど」

 

「海外、いろんなところへ行かれたでしょう。どこがよかったですか」

 

「私はやっぱりフランスが好きです。パリみたいな都会もあれば、プロバンスみたいな田舎もある。... 」

 

 話すうちに恵は初めてパリに行ったときのことを思い出した。その後、何度もパリに行った。

 

 その度に新しい発見があった。そんなふうに、恋をして、相手に対しても幾つも発見があったらどんなに楽しいだろう。

そんなことを思いながら、パリの思い出の小さな一つ一つを話した。

 

 大木は微笑みながら、上手に話を聞きだす男だった。

 

 質問の勘所がよかった。恵はすべてを受け止めてもらえそうな気がして、しゃべり続けた。

 

... 私ばっかりしゃべってて。すみません」

 

「いや、楽しいですよ。ぼくはもうどっこも行かなくてもいい感じ」

 

 そう言って大木はあはは、とおおらかに笑った。

 

 いつまでもそのまま会話で時間が流れていきそうな空気感が、二人の間に漂っていた。


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