ご紹介当日、優子はベージュのスーツを選んだ。
恵がピンクか白を着てくるだろうと思ったからだ。
場所はエムロード本社内のサロンだった。
恵が先に現れた。
薄いブルーのワンピースに、小さな茶色いバッグをもっている。
ナチュラルなメークに、サーモンピンクの薄めの口紅だった。
「もうちょっと華やかにしてきてもいいのよ」
優子が言うと、恵はちょっと目を伏せた。
「母に出てくる直前までぐちぐち言われちゃって」
優子は大きなため息をついた。
その時、上のほうから声がした。
「お待たせしました。大木です」
「あっ」
恵が立ち上がった。
ちょうど大木の分厚い胸のあたりに恵の顔があった。
しばらく、見あげていた。
「はじめまして。羽田恵と申します」
「はじめまして。大木俊也です」
「まあ、お座りになって」
優子はうながして、二人を向かい合わせに座らせた。もはや余計な説明は何もいらないと思った。いつもより早い退散だが、もういいだろう。
「あとはごゆっくり」
優子が消えると、二人はアイス・カフェオレを前に、話し始めた。
恵が話しかけた。
「会社ではどんなお仕事されてるんですか」
「アジア圏の材木を取り集める部署です。ほんとは出張もたくさんあるし、転勤もありなんですけど、今は娘が小さいので、会社に言って、日本統括みたいなことをさせてもらってます。まあいつまでそんなことが通用するのか、ちょっとわかりませんけど」
「そうですか。娘さん思いなんですね」
「いや...」
大木はちょっと申し訳なさそうな顔をしたが、恵のほうに話を振った。
「それはそうと、恵さんはスチュワーデス... あ、いや今はCAっていうのかな。やってらしたんですよね。国際線ですか」
「はい。もう辞めましたけど」
「海外、いろんなところへ行かれたでしょう。どこがよかったですか」
「私はやっぱりフランスが好きです。パリみたいな都会もあれば、プロバンスみたいな田舎もある。... 」
話すうちに恵は初めてパリに行ったときのことを思い出した。その後、何度もパリに行った。
その度に新しい発見があった。そんなふうに、恋をして、相手に対しても幾つも発見があったらどんなに楽しいだろう。
そんなことを思いながら、パリの思い出の小さな一つ一つを話した。
大木は微笑みながら、上手に話を聞きだす男だった。
質問の勘所がよかった。恵はすべてを受け止めてもらえそうな気がして、しゃべり続けた。
「... 私ばっかりしゃべってて。すみません」
「いや、楽しいですよ。ぼくはもうどっこも行かなくてもいい感じ」
そう言って大木はあはは、とおおらかに笑った。
いつまでもそのまま会話で時間が流れていきそうな空気感が、二人の間に漂っていた。
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