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〔11〕 朝顔の浴衣

 

 当日、娘の愛美を連れた大木と恵は天神橋筋商店街の2丁目の入り口で待ち合わせた。

 

 娘を連れてくるのは早かっただろうか、と大木は少し後悔していた。

 

 もし恵が、娘に違和感を感じたらと思うと、大木は気が気ではなかった。

 

 9歳になる愛美はちょっと短くなりかけた水玉模様のワンピースを着て、父親の傍らに立っていた。

 

 道行くハッピ姿やゆかた姿の子どもたちをうらやましげに見つめていた。

 

 しかし大木はそんな愛美の視線になど気づいてはいなかった。

 

「愛美。ええか。今日会うおねえさんと仲良うしてくれよ」

 

「うん。お母さんになるかもしれんねんやろ」

 

「まだわからんけどな。そうなるかもしれん」

 

「わかった」

 

 聞き分けのいい返事をして、愛美はまた屋台のほうをきょろきょろと眺めていた。

 

 そこへ恵がやって来た。

 

「大木さん、遅くなってすみません」

 

 恵は紺地に朝顔の柄のゆかたを着て、すっきりと髪をあげていた。

 

「恵さん... 」

 

 大木にじっと見つめられて、恵は決まり悪そうに言った。

 

「おかしいですか」

 

「いや、きれいやから」

 

 大木は早口で言うと、愛美の肩をつかんだ。

 

「おねえさんに挨拶して」

 

 しかし愛美は恵の姿を見るなり固まってしまい、泣きそうな顔をしてお辞儀しただけだった。

 

「どないしてん。おまえ、変なヤツやな。さっきまでうきうきしてたのに」

 

 恵は思わずかがみ込んで、愛美の顔に目線を合わせた。

 

「愛美ちゃん。はじめまして。恵です。仲良うしてね」

 

 愛美はやっぱり大木の背中に隠れてしまった。

 

「ほんまに変なヤツやなあ。まあ、とりあえず船の見えるほうへ行きましょか」

 

 急に不機嫌になった大木と恵は、連れ立って屋台の並ぶ商店街を歩き始めた。

 

 恵は愛美のことが気になってその視線を追っていた。

 

 しばらくして、気づいた。

 

「わかった。愛美ちゃん。こっちおいで」

 

「な、なんですか、恵さん」

 

「ええから。こっちおいで」

 

 恵はいぶかる大木の手から愛美の手をつなぐと、近くにあった呉服屋へ連れていった。

 

 店頭にはすぐに着られるような既成のゆかたが並んでいた。

 

「どれがいいかなあ。七つ身やったら、もう小さいですかね」

 

「お嬢ちゃんやったら、この大きさですわ」

 

 店のおばさんは白地に赤い朝顔の描いてあるゆかたを選んだ。

 

「お母さんとおんなじ柄がええわね」

 

 大木はどうしていいかわからないといった顔で、なりゆきを見守っていた。

 

 飛行機の中でも和服を着る機会があった恵の着付けは手馴れたものだった。

 

 下駄まで履かせてもらうと、愛美はぱあっと笑顔になった。

 

「着たかったのよ、ゆかたが」

 

 恵もにっこり笑った。

 

「なんでわかったんですか」

 

 大木はあきれたようにたずねた。

 

「私も子どもの頃、友達だけゆかたを着てて、拗ねたことがあったから」

 

 2人は顔を見合わせて笑った。


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