大上淳二の母親はまさに典型的な京女といった風情だった。
にこやかに言葉少なく、反論はしないが譲らない。
クリーム色の襟なしのスーツは肩パッドが入っていて、やや古めかしい感じがした。
淳二は大柄で、四角いが穏やかな顔をしていた。32歳。電子部品系のエンジニアで、資料には「高卒」とあった。
「この人のおにいちゃんは会計士ですのん。でもこの人はせっかく府大に受かったのに、すぐ辞めてしまいはって。どうしても機械いじりがしたい言わはりましてね。ほんまに困った子ですわ... 」
「そんなにちゃんとした大学に入られたのでしたら、大学中退、と書かれたらどうですか」
その時、淳二がぼそりと言った。厚ぼったい、低い声だった。
「高卒、でいいんです」
一瞬、空気が澱んだ。淳二の母親はその空気をさっと変えるように、早口でまくしたてた。
「せやけど、この人は優しいところがあるのでね。おにいちゃんは東京に行ってしまはったさかい、うちらは頼りにしてますのん」
「なるほど」
「おんなじ京都の人がよろしおすな」
「そうですねえ。なるべくそちら方面でお探ししますけど、最後は土地よりも人ですからねえ」
茜はまったく口を開かない淳二に話しかけた。
「どんな女性とお会いになりたいですか」
「... 」
淳二は首を捻って、照れたように笑った。言葉が出て来ない。
「そうですなあ。この人はしゃべらはらへんさかい、明るい、ようしゃべってくれはる人がよろしいのとちゃいますか」
母親が代わりに答えた。よくしゃべる母親をもつ子どもは、無口な人が多い。
最後まで、とうとう淳二の声を聞けずじまいだった。
親子が帰っていくと、茜は黙っていた優子にすがるように話しかけた。
「あの男の人、最後まで沈黙でしたよ。お見合い、大丈夫かしら。優子さん、京都の人で、明るいよくしゃべる女の人、いますかね」
「大丈夫よ」
優子は微笑んだ。
「京都の人はね、最初は『京都の人でないと』とおっしゃるけど、他の条件をちゃんと見比べて、割り切るところは割り切られるというか。そこは賢い人が多いのよ」
「そういうものなんですか... 」
茜は自信をなくしたようにちょっと肩を落とした。
「言葉通りじゃないんだ... 」
優子はからからっと笑った。
「最初の言葉通りだけでマッチングを考えてたら、コンピューターのデータとおんなじじゃないの。人の心のなかを読まないとダメなのよ。あのお母さんは『自分たちが息子夫婦と身近にいたい』ことが一番大事なの。それを『京都の人がいい』っていうような言い方にされたのよ」
「なるほど。優子さん、なんでそんなことがわかるんですか」
優子は力こぶを作る格好をして自分の腕をとんとん、と叩いた。
「それがキャリアってものよ。いや、親心かな」
「そっか...」
茜はまだ口の中に何か残っているような顔をして、ファイルを繰り始めた。
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