3時間。そんなにも長時間、里奈は初めて人を待った。
亮一はそれでもなんとか9時より少し前にと駆けてきた。白衣とネクタイだけはずして。
席につく前に里奈に大きく手を挙げ、息が上がって言葉もなく席についた。
「おつかれさま」
里奈はさっき着いたように軽く言って微笑んだ。でも目の前には2杯目のジンジャエールが半分以下になっていた。
「あー。ほんとにごめんなさい。おなかすいたでしょう。ここ、出ますか」
「まあ、一息ついてください」
うなずいて亮一は里奈のグラスを見おろし、黙ってビールを二つ頼んだ。
バーテンダーは1人で待っていた里奈の気持ちに成り代わったように気持ちのよい笑顔で「かしこまりました」と答えた。
「まさか、待っててくれはるなんて、思ってもみなかった」
「私が、でしょ」
里奈は胸を張って言った。
「いやその、そういうことやなくて」
「父がね... 」
里奈はグラスを手にして言いかけた。が、本当のことを言うのはかっこ悪いような気がした。
「お父さんが、何か言わはったの?」
亮一がその横顔を覗き込んだ。
ビールが二つ、やってきた。
二杯目のジンジャエールは役目を終えた。
二人は乾杯、とグラスをくっつけた。
里奈はひと口飲んで「ビールってなんて美味しいんだろう」と思った。
仕事を終えて駆けつけて来てくれた亮一と、本当は会えなかったかもしれない亮一と、飲むビールは。
心からそう思うと、こんな言葉が出た。
「父がね。医者は大変なんだ、って」
亮一はごくごくとうれしそうにビールを飲んでから、答えた。
「お父さん、わかってらっしゃるな。会いに行こうかな」
「ものすごく呑むわよ」
「負けへん」
「肝臓壊すわ。医者の不養生やわ」
「なんでそんなに呑むかわかる?」
「... 」
小首を傾げた里奈に、亮一は胸を張って言った。
「医者は大変なんだ」
二人は顔を見合わせて笑った。
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