その土曜日、午後6時に里奈とJR三宮に近いにしむらコーヒー店で待ち合わせていた。
待たされるのを考え、亮一はコーヒーでも飲んでいようと思ったのだった。
ところがその日、亮一に急用ができた。親子2代で付き合っているある一家の主が倒れたのだった。もともと高血圧で注意を払っていた患者だった。
父親はあいにく風邪を引いており、亮一が往診に出なければならなくなった。
亮一は里奈のケータイに電話した。
「里奈さん。今、どこですか」
「す、すみません。まだ阪急電車のなかです... 」
消え入りそうに声を潜めた里奈はまだややふざけていた。
「じゃ、一方的に話しますから聞いてください。実は急患が入ってしまいまして。最低1時間はかかると思うんです。場合によってはもっと。... だから、今日はキャンセルさせてください」
「... え」
里奈は、今日亮一に会えるのを約束した日から楽しみにしていた。新しい白いセーターに、今まで買ったことがないような桜色のリップグロスもつけてきた。
なんでなんで、と胸が騒いで、父親の言葉にたどり着いた。
...高ビーじゃダメだぞ。サッパリし過ぎてもダメ。
焦っている亮一は電話を切ろうとしていた。
「ごめんなさい。またあらためて」
その声を里奈の小さな声が強く遮った。
「ちょっとだけでも会えませんか。3時間後くらいならどうかしら... 」
「まあ、それくらいなら」
「じゃあ、9時にホテルオークラのバーで待ってます」
亮一は驚いた。
里奈がそこで自分を待つようなタイプだとは思わなかったのだった。
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