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〈8〉 たったひとつの恋の傷

 

 二つのお見合いが終わった数日後。

 

 亮一はエムロード神戸支社にやって来た。「電話でもいいのよ」と優子は言ったが、何か話したいらしかった。

 

「こんにちは」

 

 入ってきただけで、その場が華やぐだけの何かが亮一にはあった。優子だけではなく、幸子も他のコンサルタントも立ち上がってにこにこと歓待する。

 

「さすがに人気者ねえ。じゃ、ちょっと私が独り占めしようかな」

 

 優子が立ち上がると、幸子も寄ってきた。

 

「いえいえ。ずっとこの支社にいるのは私のほうですからね」

 

「確かにね」

 

 二人は笑いあって亮一をブースに案内した。

 

「どちらも素敵な方だったでしょう」

 

「いやほんとに、素晴らしい方を紹介してもらえて、ありがたいです。それぞれ、素敵な方で。ぼくの理想をちゃんと理解してもらえているなと思いました」

 

 幸子が言った。

 

「初田さんからも白石さんからも、お付き合いしたいという返事が返ってきてますわ」

 

「はあ」

 

 困ったようにうつむく亮一に優子がやさしく言った。

 

「もて過ぎて結婚できなくてここへ来たのに、また困るわね」

 

「いや、そんなことは」

 

 亮一は思い切ったように話し始めた。  

 

「実はぼく、そんなに恋愛経験はないですよ。一度だけ、大きな失恋があるくらいで」

 

「へえ。あなたが、失恋」

 

 優子は意外な顔をした。彼にはそんな翳りなど微塵も見えなかったからだ。

 

「インターンの頃に、ある有名なタレントと付き合ってたんです。それで結婚しようとまで思ったんですけど、彼女は事務所に猛反対されて、ぼくは両親に猛反対されて... 」

 

 その時のことがぱっと思い浮かんだのか、亮一は一瞬言葉を詰まらせた。

 

「あの時、彼女はもう芸能界辞めるとまで言ったんです。それなのに、ぼくは親の反対を押し切ることができなかった。今思えば、結婚してたらその彼女とうまくいったかどうかはわかりません。でも、相手があそこまで思いつめてくれたことを、ぼくは親の反対で翻してしまった。そのことに、ぼくは今でも自分が歯がゆいんです」

 

 情にもろい幸子はもはや目に涙をためていた。

 

 優子は亮一の顔をじっと見つめていた。

 

「その頃のあなたはまだ結婚への自信がなかったのね。でも、時間が経って、いろんなことに気づいてよかったじゃないですか。今度はあなたの意思で、あなた自身が納得して、一生愛せる人を探しましょうね」

 

 亮一は、食いしばった口元をゆるめて、うなずいた。


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