高井亮一が初めてエムロード神戸支社へやって来たのは1年前の正月明けのことだった。
亮一がやって来たというよりは、亮一の母親が彼を引きずってきたというほうが正しかった。
「ほんとにもう結婚のけの字も考えてくれないんです。後を継ぎに帰って来てくれただけでもありがたいと思わなダメのかもしれませんけど。ええ、大阪の大学だったのものですから、大阪でマンションを買いましてね...。今は人に貸しているんですけど...。」思ったことを全部、話さないと気が済まない母親らしい。
「お母様。それで、息子さんに一日も早く結婚を考えていただきたいと」
優子は話を戻そうとするが、母親の話はけたたましくあちこちにそれていった。そして母親は息子に無理やりサインをさせた。
亮一は終始、憮然としていた。というより、怒っていた。
「ありえませんよ」
優子は言った。
「亮一さん、これはね、お母様が準備をしてくださるだけで、一つのチャンスだから。出会いのチャンスだと思って素敵な方と出会ってください」
そっぽを向く亮一に、優子はそれでも微笑んでいた。
「そんなにさわやかでハンサムな顔してたら、怒ってても素敵よねえ」
お茶を代えにきた幸子が、助け船を出して笑った。
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