優子はめずらしくファイルのデータ欄を食い入るように見つめていた。
清楚で細面の、とびきりの美女がいる。
国枝絵梨子、34歳、医師。
結婚相談所に来るには年齢はちょっと高い。
父親は関西圏のある府県の医師会会長を務めているという、お嬢様でもある。
皮膚科を開業している彼女の年収は約3000万円。
「しかし、この女性に釣り合う男性は... 」
パラパラとファイルをめくる優子の手はどこにも止まらない。
今年に入って3件のお見合いをセッティングした。
男性は弁護士、会計士、医師。
最後に会ってもらった医師はなかなかのハンサムだった。
同い年の34歳。同業者だ。
国立病院勤務の外科医だが、その腕にはすでに定評があった。人望も厚く、先輩や同僚の受けもよさそうだ。
ここまで独身だったのは、本当に仕事に全力を傾けてきたからだろうと思わせるものがあった。
いつか、日本の脳外科の重鎮になるだろうと思われる男性だった。
先方は絵梨子のことを気に入っていた。
「先輩に連れられて北新地に出かけたりもしますけど、和服姿がこんなに清楚で美しい人は初めて見ました」
「ママさんと比べなくてもいいでしょう」
優子がくすくす笑うと、外科医は年甲斐もなく顔を赤らめた。
「すみません。あまり普通に素敵な女性に会うきっかけがなくて」
お付き合いをお願いしたい、という彼の言葉を胸に、優子は絵梨子に電話した。
だが、絵梨子の答えはあっけなかった。
「山本さん、すみません。本当に申し訳ないんですけど... このお話は、お断りさせてください」
その言葉に優子はがっかりした。これ以上の条件の相手はもういないのではないか。
「絵梨子さん。素晴らしい方だと思うんだけど、何がダメだったのかしら。私、この方がダメだなんて、あなたのご希望がちょっとわからなくなってきたわ」
正直な気持ちだった。
絵梨子は電話の向こうで毅然と言い放った。
「家に帰ってまで、医療の話をしたくないんです」
小さなため息が聞こえた。
そのため息のなかに、優子は言葉の外にあるものを感じた。
「... 会って話しましょうか」
電話の向こうで、2秒、沈黙があった。
絵梨子は何かを決意したようだった。
「そうですね。私、山本さんにはちゃんとお話したいです」
優子は受話器を握ったまま、静かにうなずいて言った。
「なんでも聴きますよ。あなたが結婚に前向きになってくださるならね」
「はい。ありがとうございます」
同じようにうなずいているかのような、絵梨子の言葉だった。
歯切れのいい語尾だった。
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