その時、入り口のほうで声がした。
「すみません。遅くなりました」
幸平が立っていた。
沙紀は駆け寄った。
「来てくださったんですね」
かばんと資料の入った紙袋を預かって、ふとテーブルのほうを見ると、もうほとんど食べ物が残っていない。それをかき集めてもっていくのも気がひけた。
溶けた氷の浮かぶクーラーから缶ビールを取り出し、グラスとともに手渡すと「ちょっと待っててくださいね」と、沙紀はキッチンへ入っていった。
キッチンには、いつも会の終りに家族で食べるためのカレーが、小さい鍋につくってあった。
それはほうれん草の色をしたカレーでもなく、赤い海老のカレーでもなかった。
ごくごく普通の、じゃがいもとたまねぎとにんじんと牛肉の入った、カレーだった。
沙紀は自分の分はなくなるかもしれないのも忘れて、ご飯の上にそのカレーをかけ、幸平にともっていった。
「ごめんなさい。いろいろごちそうのカレーを作ったのに、もうあんなになっちゃって。後で家の者用につくってあった普通のしかないんですけど、よかったらどうぞ」
それを見た幸平はわあ、と目を見開いた。
「わあ、いただきますっ。ぼくはこういうじゃがいもがごろっと残ってる普通のがいいんです。しかも大盛りっ」
言い終わらないうちに、幸平はスプーンを手にカレーをおいしそうに食べていた。
二人がベンチに腰掛けて話す様子を、高島家の両親はそれぞれの客のいる離れた場所から見守っていた。
沙紀の眼差しはずっと幸平だけに注がれていた。
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