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『6』 東京で働いて気付いたこと

 翌朝。高島沙紀はいつもより早く目覚めた。

 

 窓を開けると、高台にある家から芦屋の町並みが見下ろせる。その先には海も見える。

 

 心は梅雨の晴れ間の空のようだった。

 

 ふと、東京でのあれこれを思い出した。

 

 テーブル・コーディネートの仕事は楽しかった。沙紀の先生は「スタイリスト」と呼ばれていて、アシスタントとして、いろんな店から物を借りてくるのが沙紀の大事な仕事だった。

 

 先生は50代で、一見、温厚そうに見えるふくよかな美人だった。しかし、何か失敗があると、見えないところで沙紀のせいにされた。物が壊れたとき、なくなったとき。雑誌の編集者や代理店の人たちの前で、沙紀があやまって丸くことがおさまる、というようなことが2度3度とあったのだった。

 

「まあ、こんな素敵な現場にすぐ入れるなんて、高島さんはラッキーよ。先生あっての仕事だからねえ」

 

 なんとなくすべてを察した頭のいい編集者が、そう慰めてくれたことがあった。

 

 先生が嫌で関西に帰ってきたのではない、と沙紀は自分でわかっていた。本当にラッキーだったと思う。その経験があって、また関西で沙紀にテーブルコーディネートを習おうと集まってきてくれる生徒たちがいるのだから。

 

 じゃ、私はなぜ関西に帰ってきたんだろう、と沙紀は考える。

 

 両親がだんだん年をとるのを感じたというのもある。

 

 住み慣れた関西の心地よさが懐かしかったのもある。

 

 でも沙紀は、そろそろ自分の家族が欲しいと思ったのだった。

 

 先生もそうだったが、東京のマスコミ業界は1人で働く女性が多い。そういう人たちどうしでご飯を食べたり温泉に行ったりしている。

 

 ある種、家族のように。

 

 でも、沙紀はそれが家族だとは思えなかった。

 

 彼女たちの強さも弱さも寂しさもわかる。わかるけど、どこか互いの幸せを張り合っているような空気があった。

 

 それが、自分にとっては疲れる。

 

 何かが、違うような気がした。

 

 神戸に帰って来てから、それがもっとはっきりした。

 

 東京に行って働いて初めて、沙紀は「私の新しい家族」をつくろうという気持ちになったのだった。

 

 10時。高島沙紀は大きく肩でひとつ息をし、エムロードに電話した。

 

「山本さん、いらっしゃいますか」

 

 山本優子はほとんど待たせることなく、電話に出てきた。

 

 沙紀は礼を言った後、まっすぐに気持ちを口にした。

 

「山本さん、私、加賀谷幸平さんとお付き合いしたいと思います」

 

 優子の笑顔が受話器越しに見えるようだった。

 

「素敵な方ですものね。とってもお似合いだと私は思います。加賀谷さんからご連絡があったら、こちらからお電話させていただきます」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 沙紀はまだ幸平からは連絡がないのだと知ると少しがっかりしたが、自分が電話した時間が早かったのだと自分に言い聞かせた。


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