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『5』 一番美味しいもの

 

 加賀谷幸平と高島沙紀のお見合いは、6月の1週目の週末に行われた。

 

 梅雨に入る直前の蒸し暑い日だった。

 

 幸平はブルーのストライプのシャツに紺色のパンツ。

 

 沙紀はオフホワイトのシャネルっぽいスーツ姿だった。

 

 スーツ姿は落ち着いて見える。ちょっと子どもっぽい表情のある幸平のほうが明らかに年下に見えた。

 

「一つ年上のお嫁さんは金のわらじを履いてでも探せって言うんですよ。まあ今の世の中、そんなに珍しくもないですけど... 」

 

 優子は笑いながらそんなことを言った。

 

 しかし二人のどちらからもリアクションがない。

 

 ぎこちない空気が漂った。

 

 内心、優子は「失敗だったかな」と思った。けれども二人きりで話してみれば、案外、気があうということもある。

 

 そこで思いきって席を立った。

 

 二人きりになると、まず沙紀が話しかけた。

 

「仕事、お忙しそうですね」

 

「ええ。まあ」

 

 幸平は何をどこまで話していいのかがわからなかった。仕事の内容... 離婚や遺産相続の話をするわけにはいかない。かといって、いきなり亡くなった両親の話をするのもはばかられる。

 

 この間読んだ本に「女性を夢中にさせる話題」が書いてあったような気がするが、緊張で頭の中からすっかり消えていた。

 

 沙紀は幸平が「緊張している」ことをすでに悟っていた。

 

それでさりげなく質問を変えた。

 

「食べ物、何が好きですか」

 

 幸平はほっとした。それなら答えられそうだ。いや、待てよ。何が好きかな。... 意外にそう聞かれるとまた困った。

 

「好き嫌いはないですね。なんでも食べますよ」

 

 沙紀はため息をついた。会話が弾まない。

 

 しばらく沈黙が続いた。

 

 今度は幸平が口を開いた。

 

「今までで一番美味しいと思ったもの、なんですか」

 

 沙紀はすんなり答えた。

 

「うちの庭でするバーベキュー。家族や友達が集まって、みんなで食べるんです。一番集まるときで30人くらいになったりするんですよ」

 

「へえ。いいなあ」

 

 幸平はその光景を想像してまぶしそうな顔をした。

 

 沙紀はふと、幸平の両親がもう亡くなっているんだということを思い出した。

 

 この人は強そうに見えるけど、きっと寂しいに違いない。そう思うと、不器用なやり取りをしながらも、なぜか求められているものを感じた。

 

「誰が誰だかわからないくらいですから。今度ぜひ遊びにいらしてください」

 

「ほんとですか。うれしいなあ」

 

 幸平はやっと沙紀に人懐っこい笑顔を見せた。

 

 沙紀はその笑顔に吸い込まれそうな気持ちで、微笑み返した。


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