加賀谷幸平はなりたてほやほやの弁護士だ。
主に民事を請け負っているようで、その忙しさは想像がつく。
それでも幸平は、会社に近いからと時折エムロードを訪ねてくるようになった。
「優子さんの顔、見にきましたよ」
「あら。うれしいこと言ってくれるじゃないですか」
優子の顔がほころぶ。
紺のスーツに白いワイシャツ。残暑は厳しいが、彼のいでたちは派手過ぎずいつもすっきりとさわやかだ。
にこっと笑う姿はとても人懐っこい。
初めて姉に連れられてここに来たときの仏頂面を思い出すと、優子は心の中でにんまりしてしまう。
優子には31歳の幸平よりも少し年下の娘がいるが、こんな息子もいたらいいのにとふと思ってしまうほどだ。
「まあ、お茶でも飲んでいってちょうだい」
いつも丁寧な言葉遣いを心がけている優子も、幸平には時々本当の母親のように声をかけてしまう。それもまた彼にはうれしいようだった。
失礼します、とさわやかに言って、椅子に腰掛ける。
優子は冷たいお茶の入ったカップを幸平の前に置いた。
幸平はそれをひと口すすると、ちょっと大変だった仕事の話をした。
「そういう話をうんうんって聴いてくれる、可愛いお嫁さんを探しましょうね」
ひとしきり聴いた後に優子がそう言うと、幸平は明るく言った。
「優子さん、ぼく、いろんな人に会いたいんですよね」
「いろんな人... 」
「今まで、出会いがありそうで、なかったんですよ。ぼく、ほとんど中高と男子校で、大学も法学部で女子とはほとんど無縁だったんです。だからいろんな人に素敵な出会って、最高の人を見つけたいんです」
「でもねえ... 」
優子は反論しかけた。
確かに幸平ほどの条件で、ルックスもいい男性には、結婚相談所でもたくさんのチャンスがある。向こうから気に入られる可能性も相当高いだろう。
だからといって、いい成婚に結びつくかどうかは、本人次第だ。
実際、1ヶ月に何人もの人とお見合いをすると、迷いが出てしまって決まりにくい。
真面目に一人ずつ見極めていかなければ、本当の幸せにはたどり着けない。それは優子がこの仕事を長年見てきて得た実感だった。
けれどもそう理屈を言ってみたところで、今の幸平には理解できないかもしれないと、優子は直感的に思った。
「そうね。ゆっくり最高の人を選びましょう」
そう言ってはみたが、心の中にはすでに会わせたい女性の顔が浮かんでいたのだった。
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