12月。年末のあわただしさが町に漂い始める。
河西行宏と神蔵頼子の交際は3ヶ月を迎えていた。
「このまま行けば、春には挙式かもしれませんね。いいなあ。クリスマス、楽しそう」
郁子がうれしそうに言った。
優子はなんとなく立ち上がって、窓の外を見ながら答えた。
「なんかこのままではすまない気がする」
「頼子さんのお父様、ですか。でもお父様だって頼子さんがあんなに幸せそうだったらうれしいんじゃないでしょうか」
「父親ってねえ... 」
優子は眉をあげて郁子を振り返った。
「父親っていうのはね、娘を取られる気がするものなのよ。幸せになってほしいけど、取られたくはないのよ」
「ふーん。なるほどねえ」
郁子は素直にうなずく。
そこへまるで二人の会話を聞いていたかのように、頼子の父親から電話が入った。
「山本さん。この話はなかったことにしてください」
「はあ。どうなさったんですか」
頼子の父親はかなり憤慨しているようだった。
「実は... あの二人、勝手に結婚式の日取りを決めてきまして。そんなこと、親に相談もなく...。うちの娘はそういうことを今まできっちり報告する子やったんです。それにきちんと三つ指ついて『お嬢さんと結婚させてください』って言うのが筋じゃないですか。おまけにまだ結婚する前から、うちの娘を頼子頼子って呼び捨てにしてるんですよっ... 」
声が裏返った。
優子はこほん、と咳払いして言った。
「お父様。うちが何社目でしたか」
「はあ」
「結婚紹介所、うちは3社目でしょう。やっと頼子さんがその気になられたお相手です。お嬢さんが結婚したいっておっしゃってる。よかったじゃないですか。行宏さんが未熟だと思われるところは、お父様が教えてあげればいいじゃないですか」
「そんな無責任なことをっ」
電話を切ろうとする父親に、優子は笑いながら言った。
「お父様。頼みます。もう決まりかけてるんです。頼子さん、ものすごく幸せそうじゃないですか。ね、お父様」
「... 」
んー、という息だけが聞こえてきた。
娘の幸せそうな顔を思い出した父親の苦虫を噛み潰したような表情が、その無言に込められていた。
すでに父親がこの結婚を心底反対しているわけではないことを優子は悟っていた。
ただ可愛い娘を手放したくない思いが出てきただけなのだ。
「お父様。お願いです... 」
優子は茶目っ気たっぷりにこうつけ加えた。
「お口は出さないで、お金だけ出してあげて」
頼子の父親は、たまらずぷっと吹き出して笑った。
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