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《3》 優子さんの部屋

 

  優子は行宏を別室へ連れていった。

 

 そこは優子さんの部屋、と言われるほど、カウンセリングのためによく使う部屋だ。

 

 親との葛藤に悩む人。

 

 なかなか相手が決まらずに悩む人。

 

 自分の気持ちが分からない人。

 

 さて結婚となると、心が揺れる人。

 

 人だから、悩みは尽きない。当たり前のことだが、それに1人ずつ付き合うのは大変な労力だ。

 

 それでも優子は面と向かわずにいられない。なぜそこまでしてしまうのか、優子自身にもわからない。気がつけば、悩める人たちと、ここで向かいあっている。

 

 小さな部屋に通されて立ったままの行宏に、優子は椅子を勧めた。

 

「おかけください」

 

 爆発寸前の不機嫌を胸に行宏は斜めに腰掛けた。

 

 優子はにっこりと笑って、その目を見据えた。

 

「お嫌でしょう。こんなところに来るのは」

 

 行宏は今度は黙った。優子は静かに尋ねた。

 

「好きな人はいらっしゃるの」

 

 優子の質問が胸に響いたのか、行宏は少し居ずまいを正した。

 

「ぼくはこういうところで紹介されて結婚するのは嫌なんです」

 

「そうでしょうねえ」

 

 行宏はちょっと苦笑いした。優子は続けた。

 

「どういう結婚だったら納得できるのかしらね。きっと自然な出会いでしょうねえ。そうね、それが一番いいものよ」

 

 つぶやくように優子は言った。

 

... 30歳までならそれもいいわ。でも30歳を超えたらどうかしらねえ。そろそろ恋人とか結婚したい人とかを親に見せてあげるのが、長男としての義務だと私は思うけど。今のままで大丈夫?」

 

... 」

 

 行宏は目を伏せて、悔しい顔をした。優子は続けた。 

 

「私は権利と義務はワンセットだと思うの。エムロードが嫌だったら... 半年以内... あえて期間を限定させていただくわ。結婚も時期があるからね。半年以内に『この人と結婚します』ってご両親様に紹介してあげて。そしたら、うちに入らなくていいから」

 

 その言葉に行宏の眉間のシワがすっと溶けた。

 

「あの。僕... 」

 

 優子の熱い言葉が伝わったのか、行宏は自分からぽつりぽつりと話し始めた。

 

「好きな女性がいたんですけど、うまくいかなくて...

 

 うまくいく、いかないというよりは、彼は彼女にストレートに向き合えていないんだろう。優子にはそこまでわかった。が、少しゆるめにこう言った。

 

「彼女にちゃんと面と向かって好きって言ったの?」

 

... いや、まあ」

 

 心の中で「ほらっ」とつぶやいたが、優子はにっこり微笑んでこう言った。

 

「じゃ、まず告白してきてください。それでダメだったら、もっと素敵な人に出会いましょうよ」

 

 エムロードではいきなり登録者のファイルを見せたりしないことになっている。それでも優子には、もはやこの行宏に会わせたいと思う女性の顔が浮かんでいた。

 

 1ヶ月後。

 

 行宏は自分から電話をしてきた。

 

「背中押してもらってよかったですよ。ダメだったけど、すっきりしました。お願いします」

 

 優子は行宏の両親の心配げな顔を思い出して、胸がいっぱいになった。

 

「きっといい出会いがありますよ」

 

「そうですか。まあ、見合いも出会いか」

 

「そうよ。そのとおりです」

 

「バイクの趣味、わかってくれる人がいいんですけど」

 

 そう言いながらも、最後に行宏はこう付け加えた。

 

「見合いするって言ったら、母親、めっちゃ喜んでました」

 

 夢から覚めたようなその言葉に、優子は目じりに流れそうなものを小指で拭った。


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