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《2》 母親の嘘

 

 しとしと雨の降る土曜日。

 

 河西行宏が初めてエムロードにやって来たのは、父親がやって来た1ヵ月後だった。

 

 一見、とても33歳には見えない。小柄で痩せているせいもあって、まだ20代の風貌だ。

 

 頑固そうな太い眉は父親譲り、その下の切れ長の目は母親譲り。今ふうに髪をぴんぴん立たせて、これまた公務員にも見えない。

 

 彼女ができなくもないのではないか、というのが優子の第一印象だった。ひょっとしたら好きな女性がいるのかもしれない。でもどこか突っ張った雰囲気が、彼のよさを邪魔しているような気がした。

 

 そんな行宏に、どうやら一時退院している母親はこう言ったらしい。

 

「お見舞いをたくさんいただいてるから、何かお返ししないと。まだ快気祝いというわけにはいかんけれども、ちょっと荷物もちについてきて」

 

 母親の病気のことは百も承知の行宏は、バイクのイべントをキャンセルしてこちらへやって来た。根っから性格が悪いわけではないのだ。

 

 その日は雨が降っていたことも幸いだった。

 

 しかし行き先がデパートではなく、「エムロード」という結婚相談所だということを知ると、彼は急に不機嫌になった。

 

 ブースの中に座ったものの、見るからに不機嫌そうに壁を睨みつけていた。

 

 優子の前で、母親はおろおろするばかりだ。

 

「行宏。お父さんもお母さんもあんたを心配して... 」

 

「勝手なことをして!」

 

 行宏は今度は母親をにらみつけた。

 

 母親は肩をすぼめたかと思うと、しくしく泣き始めた。

 

「帰る!」

 

 その大声に、スタッフが全員振り向いた。一つ向こうのブースでは他の顧客も相談に来ている。優子はたまりかねて言った。

 

「お母さん、先に帰っていただけますか。行宏さんと私、二人で話をさせてください。」


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